民法(相続法)改正について

社会情勢の変化に対応するため、2018年(平成30年)7月に、『民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律』と、『法務局における遺言書の保管等に関する法律』が成立しました。

この改正により、さまざまな相続に関するルールが見直されています。

なお、改正法の規定は段階的に施行されます。

(1)2019年(平成31年)1月13日から

・自筆証書遺言の方式緩和

(2)2019年(令和1年)7月1日から

・遺産分割前の預貯金の一部の払戻等遺産分割等に関する見直し

・相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

・遺留分制度の見直し

・婚姻期間が20年以上の夫婦における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

(3)2020年(令和2年)4月1日から

・配偶者の居住権を保護するための方策

(4)2020年(令和2年)7月10日から

・法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設


自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日から)

今までは、自筆証書遺言は、全文を自書(自分で書く)必要がありました(旧法968①)。しかし、すべて自書しなければならないことが負担となって、利用が阻害されているという指摘がされていました。

そこで、自筆証書遺言の利用を促進するため、「財産目録」の部分については自書であることを要しない旨が定められました。(新法968条2項前段)

これにより、「財産目録」に関してはパソコンで作成したもの・第三者による代筆・不動産の登記事項証明書・預貯金のコピー等を添付してそれを目録として使用することができるようになりました。

なお、自筆証書遺言に添付する財産目録を自書による作成しない場合は、その目録の毎葉(表裏に自書によらない記載がある場合には、その両面)に署名押印する必要があります。(新法968条2項後段)


遺産分割前の預貯金の一部の払戻等遺産分割等に関する見直し(2019年7月1日から)

相続が発生すると、葬儀代の支払い、被相続人の債務の支払い、扶養親族の当面の生活費の確保など、被相続人が持っていた預貯金をあてにしなければならないこともあります。

しかし、預貯金債権は、遺産分割までは、共同相続人全員の同意を得た上で行使しなければならないため、相続人のうち一人でも同意しない人がいると、預貯金を引き出すことができないという不都合が生じることがありました。

そこで、新法では上限額を定めて、家庭裁判所の判断を経なくても、金融機関の窓口で亡くなった方の預貯金の払戻を受けられることとしました(新法909条の2)

具体的な上限額は次のとおりです。

 

 相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×1/3×当該払戻を行う共同相続人の法定相続分=単独で払戻をすることができる金額

    ※ただし、1つの金融機関から払戻が受けられるのは150万円まで。

(例)相続人 妻X 子Y 子Z 、A銀行900万円 B銀行600万円 で、妻Xが仮払いを求めた場合

  A銀行・・・900万円×1/3×1/2=150万円

  B銀行・・・600万円×1/3×1/2=100万円 

(例)相続人 妻X 子Y 子Z 、A銀行900万円 B銀行600万円 で、子Yが仮払いを求めた場合

  A銀行・・・900万円×1/3×1/4=75万円

  B銀行・・・600万円×1/3×1/4=50万円 

相続人以外の者の貢献を考慮する政策(2019年7月1日から)

被相続人に対して療養看護等の貢献をした者が相続財産から分配を受ける制度として、『寄与分』の制度がありますが、この『寄与分』は相続人にのみ認められています。

そのため、例えば息子の嫁が被相続人の療養看護に努めて、財産の維持又は増加に貢献しても、嫁が遺産の分配を受けることはできませんでした。

そこで、被相続人の療養看護等に尽くした者の貢献に報いるために、『特別の寄与』の制度が新設されました。

この制度が設けられたことにより、①被相続人の親族(相続人・相続放棄をした者・欠格事由に該当する者・廃除された者を除く)は、②無償で療養看護その他労務を提供し、③被相続人の財産の維持又は増加に特別な寄与をした場合は、相続開始後に相続人に対し、寄与に応じた金銭の請求をすることができることとなりました。

例えば、被相続人を介護していた人が長男の嫁X(長男は死亡)、相続人が次男Y 長女Z の場合、XはY及びZに金銭請求することができます。

なお、特別寄与者は相続の開始及び相続人を知った時から6カ月を経過するまで又は相続開始から1年を経過するまでに権利を行使する必要があります。 


遺留分制度の見直し(2019年7月1日から)


旧法においては、遺留分減殺請求を行使すると、当然に贈与又は遺贈は、遺留分を侵害する限度において失効し(最判昭41・7・14)、受遺者又は受贈者が取得した権利はその限度において当然に遺留分減殺請求をした遺留分権利者に帰属するとされていました(最判昭51・8・30)。つまり、遺留分減殺請求を行使した場合、目的となった財産は、遺留分権利者と遺贈等を受けた者との間で当然に共有状態が生じる結果となっていました。

しかし、このような事態が生ずることによって、目的の財産が事業用財産であった場合には事業承継に支障がでたり、目的の財産が不動産であった場合には望まない共有関係が生じることとなりました。

そこで、遺留分に関する権利の行使によって共有関係が生ずることを回避するため、遺留分に関する権利の行使により、遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することとしました。(新法1046条1項)

なお、この遺留分侵害額の請求は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します(新法1048条)

また、遺贈や贈与を受けたものが、金銭を直ちに用意できないときは、裁判所に請求することによって、全部又は一部の支払いにつき相当の期限を許与してもらうことができます(新法1047条5項)

婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置(2019年7月1日から)

旧法では、婚姻期間が20年以上の夫婦間でされた居住用不動産の贈与等についても他の共同相続人への贈与等と同じく、特別受益(遺産の先渡し)と評価されるため、相続により配偶者が取得する財産額は、結果的に贈与がなかった場合と同じになってしまいました。

しかし、婚姻期間が長期に及ぶ夫婦間で被相続人が配偶者に居住用不動産を贈与等するのは、生存配偶者の貢献に報いるとともに、生活保障する目的である場合が多いにもかかわらず、被相続人の意思が反映された結果とならないことがありました。

そこで新法では、被相続人が相続開始の際にその不動産を相続財産として分割対象の財産に加えないとする意思があったと推定することとなりました(新法903条4項)

これにより、贈与を受けた配偶者は、贈与がなかった場合に行う遺産分割より多くの財産を最終的に取得できることとなります。

配偶者の居住権を保護するための方策(2020年4月1日から)

近年の核家族化、平均寿命の伸長に伴い、被相続人の配偶者が被相続人の死亡後も長期間にわたり生活していくことが増えました。

そこで、残された配偶者の生活保障として、住み慣れた居住環境での生活しつつ生活資金を確保したいという要請に応えるため、『配偶者居住権』『配偶者短期居住権』という制度が新設されました。(新民法1028条から1036条)

『配偶者居住権』は、配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合に、遺産分割・遺贈等で権利を得ることにより、終身又は一定期間その建物に無償で居住することができるようにする制度です。

『配偶者短期居住権』は、配偶者が被相続人所有の建物に居住したいた場合に、①遺産分割が終了するまで、もしくは居住建物所有者による消滅の申し入れから6カ月を経過するまでは、被相続人の死亡後も引き続き無償で居住することができるようにする権利です。

『配偶者居住権』の成立要件は、①配偶者が、②相続開始時に、③被相続人が所有する建物に、④居住していた場合において、⑤遺産の分割によって配偶者居住権を取得するもとのされたとき、又は配偶者居住権が遺贈の目的とされたときに配偶者居住権の成立が認められます。

【配偶者居住権の活用例】

夫が亡くなり、相続人が妻と子。遺産は夫名義の自宅(土地および建物)が2000万円と預貯金2000万円。妻は住み慣れた自宅に住み続けることと、老後資金の確保を希望。子は法定相続分の確保を希望。

  ※配偶者居住権を1000万円、配偶者居住権の負担付の自宅の価格を1000万円と仮定する

妻・・・配偶者居住権(1000万円)+預貯金(1000万円)=2000万円

子・・・配偶者居住権の負担付の自宅(1000万円)+預貯金(1000万円)=2000万円    

 

法務局における自筆証書保管制度の新設(2020年7月10日から)

自筆証書遺言は遺言作成後、紛失・隠匿又は変造のおそれがあるため、自筆証書遺言を確実に保管し、相続人等が相続開始後にその存在を容易に把握することができるように、自筆証書遺言の制度が新設されました。

この制度を利用することで、遺言者の死後、家庭裁判所での遺言書の検認が不要になります。

保管の申請ができる遺言書保管所は、①遺言者の住所地 ②遺言者の本籍地 ③遺言者が所有する不動産の所在地 のいずれかを管轄する遺言書保管所になります。

遺言書の保管の手数料は、1通につき3,900円です。